大崎事件第4次再審請求即時抗告審・令和5年6月5日福岡高等裁判所宮崎支部決定へのコメント

南日本新聞朝刊(2023年6月6日)掲載



この記事について

南日本新聞社からの依頼により、大崎事件第4次再審請求に対する福岡高等裁判所宮崎支部の即時抗告棄却決定(令和5年6月5日)について寄稿したものです。翌日の朝刊に掲載されました。決定当日に記した所感ですので、分析が充分ではないところが多々ありますが、第一印象を記録するために掲載しておきます。


証拠の総合評価せず

無罪を言い渡すべき「明かな証拠」に当たるか否かは、再審で提出された新証拠だけでなく、確定審で調べた旧証拠や、過去の再審請求で提出された新証拠も総合的に評価して判断しなければならない。これは昭和50年代から確立している判例法理である。

救命救急医の鑑定書から、被害者が運ばれた時点で死亡していた「可能性」を「否定できない」ことを認める以上、裁判所はこの鑑定書だけでなく、他の新証拠や確定審から第3次再審までに現れたすべての証拠を総合的に考慮し、合理的な疑いの余地を探らなければならないはずだ。しかし、今回の高裁決定は(地裁と同じく)新証拠の鑑定書を孤立させて評価し、合理的な疑いを短絡的に否定してしまった。

高裁は、第3次請求を棄却した最高裁の判示に沿って、死体が遺棄されていた客観的な事情が共犯とされた人の自白や目撃者の供述の信用性を支えるとの前提に立つ。しかし、死亡時期について一定の可能性(蓋然性までは必要ない)を示す新証拠が加わった以上、その前提が維持できるかどうか、「疑わしいときは被告人の利益に」の原則を踏まえて慎重に判断すべきだった。

判例違反は特別抗告の理由となる。第3次再審では最高裁が再審開始決定を職権で破棄したことが「再審の制度趣旨に反する」と批判された。今回なされるであろう再審不開始に対する特別抗告でこそ、最高裁は人権救済という再審の本旨に立ち返って積極的な審理を行うべきである。

中島宏/鹿児島大学(刑事訴訟法)

 (2023年6月6日付・南日本新聞朝刊)

 


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