大崎事件第4次再審請求・令和4年6月22日鹿児島地方裁判所決定へのコメント

南日本新聞朝刊(2022年6月23日)掲載



この記事について

南日本新聞社からの依頼により、大崎事件第4次再審請求に対する鹿児島地方裁判所の棄却決定(令和4年6月22日)について寄稿したものです。翌日の朝刊に掲載されました。決定当日に記した所感ですので、分析が充分ではないところが多々ありますが、第一印象を記録するために掲載しておきます。


判例法理に背く決定

四度目の再審請求を棄却した今回の決定には、少なくとも以下のような問題がある。

まず、死因と死亡時期に関する鑑定について、一定の証明力を認めながらも、結論において「合理的な疑い」は生じないとした。その主な根拠は、亡くなった男性が自宅に運んだ2人が死体を遺棄したとは考えられない(死体が遺棄されている以上、殺害されたとしか考えられない)という点にある。これは、第3次再審で最高裁が2つの開始決定を職権で破棄して再審請求を棄却した際に用いたのと同じ論理である。

しかし、このような前提の下でしか死因や死亡時期の判断が許されないとすれば、再審の請求人に死体遺棄まで含めた完全なアナザー・ストーリーの証明を要求することになってしまうだろう。それは、再審開始のためには確定判決の事実認定に合理的な疑いがひとつでも生じればよく、「疑わしいときは被告人の利益に」という鉄則が再審にも適用されるという判例法理に背くことにならないだろうか。

次に、過去の3次にわたる大崎事件の再審では、最終的に再審は開始されなかったものの、様々な新証拠によって確定判決を支える証拠(共犯とされた人々の自白、犯行に関する会話を聴いた人の供述、死因に関する鑑定など)の信用性が揺さぶられている。しかし、今回の決定はそれらの蓄積をまったくと言っていいほど省みていない。また、今回新たに提出された供述鑑定の証明力も、それだけを孤立させて評価している。

証拠の明白性は、提出された新証拠だけで論じるのでなく、確定審や過去の再審請求で現れたすべての証拠を総合的に評価しなければならない。これも普遍的な判例法理のはずだが、この決定の判断がその要請を充たしているとは到底認められない。

中島宏/鹿児島大学(刑事訴訟法)

 (2022年6月23日付・南日本新聞朝刊)

 


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