大崎事件第3次再審請求即時抗告審・福岡高裁宮崎支部決定に関するコメント

南日本新聞朝刊(2018年3月20日)掲載



この記事について

大崎事件第3次再審請求の即時抗告審である平成30年3月12日の福岡高裁宮崎支部決定に対し、検察官が特別抗告をしたことを受けて、南日本新聞社からの依頼で同紙に寄稿したものです。


大崎事件 検察主張は「形式的」−中島宏(鹿児島大学法文学部教授)

特別抗告は、憲法違反または判例違反がなければ認められない。特別抗告にあたって検察官は判例違反を主張しているが、その内容は「こじつけ」に近く、かなりの無理がある。

高裁決定は、決して死因に関する新たな法医学鑑定を過大に評価して再審開始を支持したわけではない。新たな法医学鑑定が最初の裁判のときに存在していたならばどのような判断がなされたかを、新旧すべての証拠を総合的に再評価して検討し、請求人が犯人だとするには「合理的な疑い」が残ることを示している。これは昭和50年の白鳥事件決定から続く最高裁判例の立場を堅持した判断である。

また、確定判決の柱であった「共犯者」による自白を、新たな法医学鑑定によって示された客観的な事実(事故死の可能性を示す事実)を照らし合わせた結果「信用できない」としているが、これは裁判実務の伝統的な手法による手堅い判断である。高裁が、結論として再審開始を維持したにもかかわらず、地裁の決定をあえて批判して供述心理鑑定に依拠することを回避したのは、このような「手堅さ」を貫くためでもあったように思われる。

結局のところ、判例違反の主張は形式的なものに過ぎず、検察官は、実質的な事実誤認を主張しているに過ぎない。最高裁がこれを受け入れる余地はないだろう。

再審は人権救済のための制度である。この理念に照らせば、再審開始決定に対する検察官からの上訴は、極めて抑制的に運用されなければならない。制度自体の妥当性すら厳しく批判されており、ドイツのように検察官上訴を廃止した国もあるほどだ。そして、大崎事件は、針の穴にもたとえられるほどの「狭き門」である再審開始を、司法が三度も認めた希有なケースである。請求人が高齢であることも併せれば、検察官は特別抗告を踏みとどまり、「公益の代表者」(検察庁法4条)としての矜持を国民に示すべきだった。最高裁は、速やかに審理して特別抗告を棄却すべきである。




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