判例レビュー

A事実による勾留期間中にB事実についても同時に捜査が行われたにもかかわらず、
あらためてB事実につき勾留することが否定された事例(準抗告)

季刊刑事弁護30号163-164頁(2002年)



【キーワード】

勾留に対する準抗告
勾留の効カが及ぶ範囲
同一事実の蒸し返しによる勾留

事件番号:平成13年(む)第B213号
決定日:平成13年4月27日
裁判所:浦和地方裁判所第二刑事部
裁判官:若原正樹・大澤廣・田中邦治
弁護人:萩原猛
参照条文:刑訴法60条1項・208条・432条・426条2項、憲法31条・34条

決定のポイント

1 捜査の経緯

本件被疑者Xは、いわゆる「出会い系」の媒体を通じて知り合ったA(当時14歳)を同伴してホテルに赴き、18歳に満たない児童であることを知りながろ、対償として現金を供与する約束をして性交などをしたとして、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」4条違反(以下、児童買春)により、2001年4月3日に、埼玉県警越谷警察署の捜査員により逮捕された。なお、認知の端緒となったのは、Aおよびその親による通報である。Xは、捜査官の取調べに対して、本件にかかる一連の事実として、[1]Aとホテルに行ったことは事実であるが、客室にてすぐに喧嘩となり、性交などの行為は何もせずに退去したこと、[2]性交の対象としての金銭の授受に関する話は一切していないこと、[3]その後、Aから同日の出来事を警察に告げるなどのメールや電話が繰り返され、面会や金銭の支払いを要求されたこと、[4]それに対して「親にばらすぞ」などの内容のメールを送信して、Aとの関係を断とうとしたこと、6Aはホテルにてxがビデオを撮影したことなどを述べているが、そのような事実はないことなどを一貫して述べていた。勾留および延長がなされたのち4月20日に、Xの家族からの依頼で弁護人が接見を行い本件を受任した。勾留延長が満期となる4月24日、弁護人が2度目の接見を行ったところ、Xは同日の午前中に形式的には釈放され、引き続いて、Aの携帯電話にメールを送信することによる脅迫を被疑事実とする逮捕がなされたことが判明した。

2 準抗告の申立て

翌4月25日、脅迫を被疑事実とする勾留状が発付されたことを受けて、弁護人は準抗告を申し立て、以下のように主張した。Xは、[1]児童買春の疑いによって勾留され、22日間にわたる取調べを受けているが、[2]その際に児童買春の事実を否定すべく、当日の行動に加えて、それと密接に関係するAとのやりとり(脅迫にあたるとされているメールの送信を含む)についても積極的に供述している。また、[3]捜査機関もAの携帯電話に送信した当該メールを証拠として保全するなど、脅迫にあたるとされた行為を含めてXとAとの間で生じた一連の出来事をすでに捜査対象としている。したがって、[4]脅迫についてなされた本件勾留は、すでに発覚して同時捜査が可能な事実について、あえて小出しにして繰り返し身柄拘束を行おうとするものであり、憲法31条・34条、刑訴法208条に違反する。

3 準抗告審決定

準抗告審では、決定に先立って、裁判長から弁護人に対して、Xの身元引受人となる家族を連れて来庁

するようにとの依頼がなされた。そして、裁判所は、Xの家族との面会において、被害者に対する働きかけをさせないことや捜査機関からの呼び出しに必ず応じさせることを書面により誓約させている。

決定では、まず、当該メールがすでに証拠化されていること、被害者からの事情聴取もすでに実施されていること、当該メールの送信自体は争われていないことなどから、[1]罪証隠滅のおそれは必ずしも大きくないとした。また、Xの生活状況から、[2]逃亡のおそれも小さく、[3]身元引受人の誓約があることにも鑑みて、Xを勾留して捜査を遂げる必要性があるとはいえないとして、原裁判を取り消し、勾留請求を却下した。

本件において、1度目の勾留の基礎となった児童買春(以下、A事実)と2度目の勾留の基礎となった脅迫(以下、B事実)とは、密接に関連する一連の出来事であるし、捜査機関は、B事実に対する捜査をもっぱら意図しながらA事実による勾留を行ったわけではない(児童買春のほうが脅迫よりも法定刑が重い)。したがって、A事実による勾留は違法な別件勾留ではないし、余罪としてB事実を捜査したことも適法とされよう。争点はA事実による勾留に引き続いて、B事実による勾留を認めるべきか否かに限定される。

弁護人は、勾留の基礎となる単位につき、いわゆる手続単位説に立つ。捜査機関は同時に処理できる犯罪事実については1つの手続単位として含わせて処理する義務を負い、勾留の範囲もこの手続単位に及ぶとする立場である(渥美東洋「刑事訴訟法〔新版補訂〕』〔有斐閣、200!年〕43頁)。この立場によれぱ、B事実による勾留請求は、すでに勾留の効力が及んでいる部分についてのr蒸し返し」であり許容されない。手続単位説に対しては、同時処理が可能な範囲を令状審査において画するのが困難であるとの批判が有力である(平良木登規夫『捜査法/第二版〕』[成文堂、2000年〕149頁)。しかし、こと本件については、A事実に対する弁解の聴取がそのままB事実の取調べを兼ねるという関係が成立しており、捜査機関による同時処理が、むしろ必然でさえあるといえよう。もっとも、通説である事件単位説によっても、結果として、A事実による勾留を利用したB事実の取調べが進行した二とが明らかな場合については、その事情を被疑者に有利な方向で斟酌し、事件単位の原則に例外を認め、B事実による勾留を実質的な「再勾留」とみなしてこれを禁止することができる(田宮裕『刑事訴訟法〔新版〕』〔有斐閣、1996年〕93頁)。なお、弁護人が引用した狭山事件に関する最決昭52・8・9刑集31巻5号821頁は、A事実による逮捕が違法な別件逮捕と評価できる事例につき、同様の構成を示唆するものといえよう。

これに対し、本件の準抗告審は、B事実について、刑訴法60条1項各号が規定する実体的な勾留の理由が存在するか否かの判断のみを行っている。前述の捜査状況やA・B両事実の密接な関係は、B事実についての「罪証隠滅のおそれが」大きくないことを基礎づける理由としてのみ考慮されており、弁護人が提起した「蒸し返し」にあたるとの観点は採られていない。このことは、もうひとつの勾留理由である「逃亡のおそれ」を否定するために、あえて身元引受人の誓約を確保したことからも見てとれる。その判断内容自体は正当であろう。しかし、あえて本件の捜査状況にも着目したのであれば、その捜査状況から直ちに導かれる、勾留理由の有無とは別の外在的な制約(=実質的な「蒸し返し」勾留の禁止)についても触れるべきだったのではなかろうか。なお、B事実での勾留理由が存在することを示しつつも、不当な勾留の繰り返しにあたるため許容されないとした例として、大津簡決昭35・12・!7下刑集2巻11=12号160頁がある。

4 その後の経過

この決定により釈放されたXに対しては、検察官からの出頭要求が2度にわたってなされ、もっぱら脅迫について任意の取調べが行われた。Xと弁護人は正当防衛を主張したが、のちに略式命令によることに同意し、20万円の罰金刑を受けた。児童買春については、12月28日付で不起訴の裁定がなされたとのことである。

本稿の執筆にあたっては、本件の弁護人である萩原猛弁護士(埼玉弁護士会)ならびに田中健太郎氏(55期司法修習生)のご助力を賜った。記してお礼を申し上げる次第である。

中島宏(なかじま・ひろし/跡見学園女子大学専任講師)


決定文

上記の者に対する脅迫被疑事件について、平成13年4月25日越谷簡易裁判所裁判官がした勾留の裁判に対し、同月26日弁護人萩原猛から準抗告の請求があったので,当裁判所は次のとおり決定する。

【主文】
原判決を取り消す。
検察官の勾留請求を却下する。

【理由】

第1 請求の趣旨及び理由

本件準抗告の請求の趣旨及び理由は,弁護人作成の準抗告申立書記載のとおりであるから,これを引用する。

第2 当裁判所の判断

別紙のとおりである。

第3 よって、本件準抗告の請求は,理由があると認められるので,刑事訴訟法432条,426条2項を適用して,主文のとおり決定する。

(別紙)

本件被疑事実は,被疑者が,iモードのメールサービスを通じて知り合った女子中学生である被害者と一緒にホテルに行ったことについて,被害者から,「約束した金をくれなければ,警察に言う。」などと言われた二とに憤慨し,被害者に対し,「一日俺の奴隷になれや嫌なら良いよ売るだけだから」などという内容のメールを送信して脅迫したという事案である。一件記録によると,本件は,上記脅迫メールを受け取った被害者が後難を恐れて被害を届け出たことから、これを捜査するうち、披疑者について児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の嫌疑が浮上し、平成13年4月3日,上記被疑事実で被疑者を逮捕し,勾留期問を延長して捜査を継続したものの,被疑者が犯行を否認し,被害者の言い分との問に相当の相違があるなどのため,最終処分に至らず,同月24日処分保留として釈放し,同時に本件被疑事実で逮捕するに至ったものであることが認められる。このような経過に照らすと,彼疑者が本件についての罪証を隠滅するおそれがないとまではいえないものの、他方で,本件事案の性質,態様に加え,当該脅迫メールの内容については携帯電話に表示された状態を写真撮影して証拠化されていること,この点についての被害者からの事情聴取も既にある程度実施されていること,被疑者は,前記法律違反で逮捕された時点から脅追メールを送信したこと自体については一貫してこれを認める趣旨の供述をしていることなどに鑑みれば,罪証隠滅のおそれは必ずしも大きくないというべきである。そして,被疑者の生活状況等を考慮すれば,逃亡のおそれも小さいということができ,これらに,前記の本件捜査の経緯や,被疑者の父親らがその身柄を引き受け,被害者に対する働きかけをさせないこと及び捜査機関からの呼出しに対しては必ず出頭させる旨誓約していることなどを併せ考えれぱ,本件について,今後更に被疑者を勾留して捜査を遂げる必要性があるとまではいえない。


準抗告申立書

浦和地方裁判所越谷支部刑事部御中

平成13年4月26日

被疑者 ○○○○
弁護人 萩原猛

上記被疑者に対する脅迫被疑事件につき、裁判官畠山芳治が平成13年4月25日付でなした勾留裁判に対して、下記のとおり準抗告を申し立てる。

第1 申立の趣旨

1 原裁判を取り消す
2 検察官の勾留請求を却下するとの裁判を求める。

第2 申立の理由

1 被疑者は、本年4月3日下記被疑事実によって逮捕され、同月5日同事実によって勾留され、さらに同月13日勾留延長され、勾留満期日である同月24日処分保留により釈放された。

被疑者は、平成12年9月6日午後8時ころから同日午後10時ころまでの間、埼玉県○○市△△丁目△番△号所在のホテル「気まぐれ天使」客室内において、A子が18歳に満たない児童であることを知りながら、同女に現金20万円の対償を供与する約束をして、性交等をし、もって、児童買春をしたものである。

まず、上記被疑事実について、被疑者は、そこに示されているような犯罪を犯していない。

確かに、上記児童と上記ホテルに赴いた事実はあるが(しかし、その日は平成12年9月6日ではない、被疑者としては諸般の状況から9月2日ではないかと思っている)、被疑者と児童はホテル客室内において喧嘩し、同室内において性交や性交類似行為などしないま
ま、同室を退去している。

また、当日、両者は、現金20万円はもとより、性交等の対償としての金銭の話は一切交わしていない。

2 被疑者は、4月3日逮捕後、取調べにおいて、上記の自己の主張を捜査官に、正直に供述してきた。

被疑者と児童の供述が食い違うため、捜査官は、被疑者と児童がどのようにして出会い、ホテルに行き、その後どのようなやり取りがあったのか、本件の経緯にっいて22日問にわたって充分に取り調べ、その他裏付け捜査を実施してきた。

3 この度、被疑者は、上記被疑事実については処分保留の状態で釈放となり、脅迫の被疑事実で再逮捕・再勾留された。その被疑事実は、上記ホテルでの行為後に、被疑者が児童に対し、所謂「援助交際」の事実を暴露して児童の名誉に害を加えることを告知したというものである。

児童は、ホテルに赴いた日以降も被疑者に対し、しつこく電話やメールを寄越し、ホテルでの事を警察に告げると脅追し、再び会うことや金銭の要求をしてきた。被疑者は、この児童とは関わりを絶ちたかったため、児童に対し、断りのメールや親にばらすぞといったメールを送信したりした。そして、そのような経緯については、4月3日の逮捕・勾留当初から、捜査官も取り調べにおいて被疑者に質問してきたし、被疑者も正直に供述してきた。捜査官の方でも、児童の携帯に送信されてきたメールを証拠として保全していた。

従って、今回の逮捕・勾留事実は、当初の逮捕・勾留当初から捜査機関に発覚しており、同時捜査が可能な余罪であり、杜会的に密接に関連する事実であった。

しかも、前回の逮捕・勾留事実については、被疑者は上記のように具体的に供述しており、一貫して否認していた。そのような状況で被疑者の処分を決定するには、事の経緯を2人の出会いから児童による捜査機関に対する被害申告に至るまで捜査する必要があり、現実にそのような捜査が為されていた。

何しろ、被疑者の取り調べを担当している警察官は、今回の再逮捕に際し、今回の被疑事実についても既に取り調べてしまっているので、もうやることないなあ、と被疑者に語っている程である。

4 以上の経緯に照らせば、本件勾留は、捜査機関において既に発覚し同時捜査が可能であった事実にっいて・勾留期問の制限を潜脱するために殊更事実を小出しにして、繰り返し身体拘束しようとしたものと断ぜざるを得ないものである。本件勾留は、憲法31条・34条、刑事訴訟法208条に違反すると言わなければならない。

5 最高裁判所は、いわゆる狭山事件に付いての昭和52年8月9日第二小法廷決定において、こう述べている(新矢悦二「最高裁判所判例解説刑事篇昭和52年度」253頁以下)。

…第一次逮捕・勾留中に「別件」のみならず「本件」についても被告人を取調べているとしても、それは、専ら「本件」のためにする取調べというべきではなく、「別件」について当然しなければならない取調べをしたものにほかならない。……しかも、第一次逮捕・勾留当時「本件」について逮捕・勾留するだけの証拠がそろっておらず、その後に発見、収集した証拠と併せて事実を解明することによって、初めて「本件」について逮捕・勾留の理由と必要性を明らかにして、第二次逮捕・勾留を請求することができるに至ったものと認められるのであるから、「別件」と「本件。とについて同時に逮捕・勾留して捜査することができるのに、専ら、逮捕・勾留期問の制限を免れるため罪名を小出しにして逮捕・勾留を繰り返す意図のもとに、各別に請求したものとすることはできない。

また、神戸地裁昭和49年!2月4日決定(判例時報769号114頁)は、「別件勾留中保釈されるとみるや、既に発覚済の本件で逮捕状の発付を得て逮捕したのは、不当に身柄拘束継続の意図に出た疑いがあって違法であり、これを前提とした勾留請求は違法で、却下を免れない」としている。

最高裁判例・神戸地裁判例から言えることは、当初の逮捕・勾留の段階で捜査機関に発覚している余罪で、かつ、その余罪について逮捕・勾留するだけの証拠がそろっている場合には、捜査機関には、その余罪も含めて当初の逮捕・勾留の被疑事実と同時に捜査する義務があるということである。

この点に関し、中央大学の渥美東洋教授は、こう述べている(渥美「刑事訴訟法要諦」中央大学出版部119・120頁)。

一犯罪事実ごとに一回の勾留が認められるとすることは、あまりにも、捜査機関に利益にすぎ、身柄拘束期問を長期化する。一回の勾留で、捜査することが可能な範囲までは、身柄拘束期問の短縮の利点から考えて、捜査機関は捜査する義務があると解するべきである。……さらに、現実には、当初の身柄拘束下で捜査しなかった犯罪事実であっても、捜査が可能であった場合にも、その事情は配慮されなければならない。
そこで、原則は、捜査機関に発覚している犯罪については、一回の身柄拘束に限定し、それでは捜査が不可能であることが示される場合に限って、必要限度の日数の期問だけ、再度の身柄拘束が許されると解すべきである。そこで、再度の身柄拘東期間は、身柄拘束の法定期問より短くなるのが原則である。前の身柄拘束期問内に利用されたか、利用すべきであった期問だけ、再度の拘束にあっては、拘束期間から差し引かれなけれぱならないのを原則とする。

また、立教大学の荒木伸怡教授も、次のように述べている。(荒木「刑事訴訟法読本」弘文堂76・77頁)。

一つの犯罪には一回の勾留しか許さないとする「一罪一勾留の原則」が、一般に承認されている。…つの犯罪に一回の勾留しか許さない限度では、この原則を認めることに異論はない。しかし、勾留に関する「事件単位説」のように、その限度を越えてこの原則にこだわると、別件ないし余罪がある場含に、前回の請求とは異なる事件で勾留を請求しさえすれば、一件ごとに請求する限り何回でも勾留が認められることとなる。しかし、これでは余罪のある被疑者やささいな別件で逮捕された被疑者の勾留期問が長期にわたりうることとなってしまい、勾留期問の最長限が法定されていることが無意味になってしまう。

そこで、事件単位説は、A事件による勾留とB事件による勾留との併存的な請求を許すことを認めた上で、勾留期問の長期化はこの併存的な請求により避けられるとする。しかし、被疑者の取調べおよびその徹底が捜査機関側からみた勾留の目的である以上、また、別件の逮捕・勾留期間をも利用して本件の取調べを行おうとしている以上、被疑者の勾留期間を短くすることとなる併存的請求を、捜査機関自らの側から行うという事態はほとんど想定しがたい。すなわち、事件単位説は、わが国の捜査の現状を踏まえず捜査機関の善意を信頼しすぎている学説なので、賛同しがたい。
……手続単位説は、前述した事後審査を二回目以降の勾留請求の際に行うことにより、勾留の蒸し返しを避けようとする。10日(プラスlO日以内)という勾留期問は、起訴前の身柄拘束期間としてはかなり長い。その結果、A事件の勾留の理由と必要とがそれ以内に解消してしまい、残り期問をB事件に利用する事態や、A事件の勾留期問を並行してB事件のためにも利用する事態が生じうる。前述した意味でこれは、B事件の勾留請求がなされた際に、勾留質問の場において被疑者に尋ねて確認すべき内容の一部である。勾留裁判官は、既にB事件のために利用された期問を差し引いた上で、今回請求されているB事件による勾留を許すか否か、許すとすればその勾留期問を、決めることになる。

未決勾留期間の本刑算入の際や刑事補償額の算定の際には、勾留状に記載されている事件に形式的に捉われることなく、当該勾留期問がどの事件のために利用されていたかを調査しそれを決定内容に生かす方式が採られている。手続単位説は、被疑者の勾留期間を決定する際にもこの方式を採るように主張しているのである。

6 原審裁判官は、検察官の要求通り1O日間の再度の身柄拘束を認めた。これまでの捜査の実態を無視した決定と言うしかない。個人の行動の自由は、われわれの最もかけがえのない基本的な自由であり、自然権である。この尊い自由は、「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって」「侵すことのできない永久の権利」として、われわれに与えられたものである。われわれ市民が求める裁判官は、裁かれる立場にある者、自由を剥奪される立場にある者のことを思いやり、共感することのできる人問的感性豊かな人物である。そして、法の精神を体現し、何者にも屈せず、それを実現できる独立の強い法律家である。準抗告審の裁判官におかれては、ただ検察官の言いなりになるのではなく、少しは捜査の実態というものに思いを巡らせ、学者の見解にも耳を傾けて、人類の多年にわたる努力の成果を無にするような判断をなさらないことを祈るものである。




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