平成14年度司法試験2次・新考査委員のプロフィール
刑事訴訟法・多田辰也先生(大東文化大学法学部教授)

受験新報618号75頁(2002年)

司法試験受験生向けの雑誌「受験新報」からの依頼で、2002年度から司法試験考査委員となった多田辰也教授の紹介記事を書きました。新しい考査委員の業績や学説について、同僚や後輩である別の研究者が紹介するものです。田宮研究室の後輩ということで、私が書かせていただきました。田宮ゼミOB・OG会の方々にお読みいただくために、ここにも掲載します。



−多田辰也先生が新しく考査委員となられました。先生の人となりをお聞かせください。

中島 多田辰也教授は、立教大学の学部および大学院を通じて、故・田宮裕先生の指導を受けられました。学問に対する厳しさと人に対する暖かさを同時に感じさせるお人柄は、'恩師譲り'と言うべきでしょう。なお、大東文化大学の学生からは「多田ゼミは勉強量が多くてチョー厳しい!」と恐れられて(?)いるようです。

−多田先生が著された代表的な著書とその概要を教えてください。

中島 多田教授の代表的な著書としては、何よりもまず『被疑者取調べとその適正化』(成文堂、1999年)を挙げなければなりません。多田教授のライフワークとも言うべき「取調べ」に関するこれまでの研究成果が収められた論文集であり、研究者や実務家がこの分野を論じる際の必読文献としての評価が与えられています。また、司法試験受験生にとっての必読文献を挙げるとすれば、田宮先生との共著である『セミナー刑事手続法・捜査編』(1990年、啓正社)と『同・証拠編』(1997年、啓正社)があります。いずれも、重要論点ごとに判例をベースにした設例が掲げられ、それに対する論点整理と解説とが示される形で構成された演習書です。

−同じく最近発表された論文・研究テーマなどの概要を教えてください

中島 多田教授が発表された論文のうち、取調べに関しては、最新のもの(「被疑者取調べの法的規制」大東法学8巻2号[1999年])まで含めて、前述の論文集に収められています。取調べというテーマじたいが「日本型刑事手続き」の根幹をなすものであるため、身柄拘束、防御権、自白法則など種々の問題にも必然的に言及されていることに留意する必要があります。また、それらとは別に最近の代表的な論文としては、「証人審問権についての予備的考察」立教法学49号(1998年)、「無罪判決に伴う勾留状失効後の被告人の再勾留」『光藤景皎先生古稀祝賀論文集(上)』(成文堂、2001年)などが注目されています。

−多田先生の刑事訴訟法に対する基本的な考え方・姿勢・学説など、簡単にご紹介いただけませんか。

中島 多田教授による刑事訴訟法学は、[1]判例のみならず、捜査・訴追・公判の担い手による具体的な活動のあり方をも含めた'実務'を客観的に把握したうえで、[2]刑事訴訟法の諸原則が母法において形成された歴史的経緯と日本の刑事手続きが辿った歴史的経緯とを等しく踏まえつつ、[3]現行憲法が示す理念に適合する方向での変化を、個別の対象に応じて判例・運用・立法の各チャンネルを使い分けつつ求めていくものです。その意味では、[4]戦後刑事訴訟法学の遺産というべきデュープロセス論の正統な継承者と評すべきでしょう。しかし、たとえば「田宮・デュープロセス論」と多田説との等質性については、なお慎重な検討が必要かもしれません。とりわけ捜査実務に対しては、[5]より根本的・全面的な変革を、より直截に要求しつつ(たとえば「取調べ中心主義」の放棄)、そのための、より具体的な指針と手順を提唱しようとする志向を読みとれるように思います。

−最後に、多田先生ならば考えられるであろう出題をずばり予想していただきたいのですが。

中島 このように幅と奥行きのある多田教授の研究業績を前にして、「ズバリ予想せよ」との注文に応えるのは、あまりにも困難です。多田教授の場合、独自でしかない問題関心に基づいて奇をてらった出題をすることはあり得ないので、受験生は大いに歓迎すべきでしょう。そのかわり、判例理論の存在を前提としない解答や、学説が実務に向けた問題意識の根幹を見落として概念操作のみに走る「学説マニア」の解答には、おそらく厳しい評価がなされるのではないかと私は想像しています。

中島宏(跡見学園女子大学専任講師)




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